SDGsが浸透するにつれて、様々な業界でサステナビリティ(持続可能性)を模索した取り組みを行う企業が増えてきました。
ファッション・アパレル業界もそのひとつで、サステナビリティを考えた動きが推進されつつあります。
サステナビリティ・サステナブルといえば、環境を考えた取り組みを連想する方も多いと思います。しかし、ファッション・アパレル業界はその限りではありません。
ファストファッションの背景にあるような同業界が抱えてきた劣悪な労働環境の改善についても、持続可能性の観点から問われるようになりました。
今回の記事では、サステナブルファッションの概要も含め、サステナブルファッションが誕生した経緯や、サステナブルファッションに積極的に取り組むブランドについてもご紹介します。
サステナブルファッションとは
サステナブルファッションとは、そもそもなんでしょうか。
一着の服が生まれてから廃棄されるまでには、「素材の選定→生産→流通→販売→着用→廃棄」のサイクルがあります。
生産された服がすべて売れ、限界まで着用され、廃棄されるのであれば良いのかもしれませんが、現実はそうはいきません。実際は、供給過剰が常態化しています。
例えば2019年は、アパレル業界全体で28億4600万点の商品供給されましたが、セールを繰り返しても13億7300万点しか売れず、14億7300万点が売れ残ったと推計されています。実に需要に対して倍の供給が常態化しており、過半数が売れ残り、翌年に持ち越されるか、廃棄されているのです。しかも翌年も供給の倍の量が生産されますから、このサイクルが止まることなく、ずっと続くことになります。
もちろん問題は、セールスのフェーズだけではありません。素材の選定・確保の時点で環境や労働者に大きな負荷がかかっているかもしれませんし、結果的に売れない服を運ぶために、石油もたくさん消費されています。
購入者も、買ってみて気に入らなければすぐに捨ててしまうケースも多いのではないでしょうか。
サステナブルファッションは、このような状況を見直し、将来に渡って持続可能である服作りを目指して、地球環境や労働環境、社会問題に配慮された流れをファッションに組み込もうとする動きを指します。
サステナブルファッションはなぜ生まれたの?
このようなアパレル業界の問題は昔からありましたが、なぜ今、注目を集めているのでしょうか。
その背景には、ファストファッションの隆盛があります。
現在は、SHEIN、GRL、H&M、GU、ZARA といったファストファッションブランドが世界的に流行しており、スマホひとつでトレンドの服を、安価で購入できる時代となりました。
消費者にとってはとても便利で財布にも優しいですが、ファストファッションの問題点は、大量生産・大量消費であること。また安く供給するために、原価を抑え込む点にあります。
このような問題があるなかで、SDGsが謳われるようになり、これまでの業界の在り方に見直しが求められはじめました。
実際に2019年に開催された主要7ヶ国会議では「ファッション協定」が発表され、環境への負担軽減やファッション業界で起きている問題の改善が急務とされています。
このような流れを受けて、ファッション・アパレル業界では各企業が続々とサステナブルファッションに着目し、様々な取り組みをはじめるようになりました。
ファッション業界の抱える課題
ファッション業界は様々な問題点を抱えていますが、そのなかでも特に「環境負荷が大きいこと」と「劣悪な労働環境によって人権が保証されないこと」に問題があるとされています。
アパレル業界の環境負荷の実際
衣服の製造には多くの資源が使われており、「二酸化炭素の排出」や「水の大量使用」、「過剰在庫や余った生地の大量廃棄」など様々な面で、環境に負荷がかかっています。
「原材料調達段階の環境負荷」(環境省によるサステナブルファッションについて)より
労働環境と人権問題
環境面だけでなく、労働状況も検討する必要があります。
劣悪な就労環境を強いていたがゆえに、大きな事故が起こってしまったことがありました。
ダッカ近郊ビル崩落事故
アパレル業界史上最悪とも言われるこの事故は、2013年にバングラデシュの首都ダッカ近郊で発生しました。
ラナ・プラザと言う8階建ての商業ビルにはアパレルブランドの下請け業者が複数入っていたのですが、ビルのずさんな管理が原因で突如崩壊し、従業員の女性を中心に死者1,127人、行方不明者およそ500人、負傷者2,500人にも及ぶ大事故が起きてしまいました。
この事故が起きてしまった原因としてこれらの背景が考えられます。
- 安全を無視した労働環境
ラナプラザに限らず、下請け業者はコストを削減するために古い建物を仕事場として使用することが多いです。それに加えて建物を違法に増築したり、機械を違法に設置したりと「利益>安全」といった考えの元、管理されていました。 - 人権を侵害するほどの過酷な労働
激化する価格競争を生き抜くためにには、製造コストを下げる必要があります。
この企業では、コストを下げるために下請け業者の従業員を低賃金で働かせていました。さらには長時間労働、虐待、休憩なしといった劣悪な環境が蔓延しており、多くの労働者の人権を侵害していたことが、明るみになりました。
この事故はアパレル業界に衝撃を与えました。
二度とこんな事件が引き起こされないよう、サステナビリティ、すなわたちサステナブルファッションの在り方が模索されるようになりました。
サステナブルファッションの条件
サステナブルファッションに明確な定義があるわけではありません。
しかし、持続可能であることを軸とし、以下に当てはまるような商品を指します。
- 長く使える丈夫さ、飽きのこないデザインか(流行が終わった後に廃棄されない)
- 素材や製造過程が環境に配慮されているか
- リサイクル可能な素材か
- 健全な労働環境で生産された商品か
長く使える丈夫さ、飽きのこないデザインか
日本中の家庭で1年間に手放される衣服の量は約75万トン。
なかなか想像しにくい数字ですが、この量を少しでも減らすために、丈夫で飽きのこないデザインのアパレルを購入することが解決策のひとつとなります。
服を1着作るのにも多くの環境負荷を与えてしまっているとご紹介しましたが、同じ服を長く使い続けることで、環境への影響を減らすことができます。
壊れにくい素材か、破れた時にリメイク可能か、飽きずに長く着用できるデザインか……と言った点を重視し選択することで、環境への負荷を抑えることができます。
素材や製造過程が環境に配慮されているか
- 天然素材(オーガニックコットンなど)を使用した製品か
天然素材は廃棄後も土に還ることができるため、環境に優しいとされています。 - 動物性素材を使用していない製品か
動物の毛皮などが使用されていない製品を購入することが、サステナブルに繋がります。 - 製造工程は環境にやさしいか
余分な製造工程を省く、在庫管理を徹底し廃棄量を減らす、無駄な輸送はしないなど様々な場面で効率化を図ることで、環境への負荷を減らすことができます。
リサイクル可能な素材か
本来であれば廃棄したであろうものを再利用した素材を、リサイクル素材と言います。
例えば、ペットボトルの回収・再生は身近ですよね。資源をリサイクルすることで、石油の使用量を抑えることができ、二酸化炭素の排出量も減らすことができます。
商品の使用だけでなく、使用しなくなった時のことを考えて購入しましょう。
健全な労働環境で生産された商品か
発展途上国の下請け業者では、人権が保証されないほど劣悪なこれらの労働問題を抱えています。
- 低賃金
- 長時間労働
- 児童労働
- 安全が保証されない職場
環境に配慮された素材であることはもちろんですが、クリーンな製造工程で作られた製品を購入することも、人権の面でサステナブルな取り組みのひとつと言えます。
サステナブルに繋がるアクションとは?
ここまでサステナブルファッションについてご紹介してきました。
では具体的にはどのようなアクションを起こすことでサステナブルにつなげることができるのでしょうか。
サステナブルファッションに繋がるアクション
- 長持ちする素材の服を購入する
- 飽きのこないデザインの服を購入する
- リサイクルショップやフリマアプリで売買する
- 必要な量を見極める
- 天然素材の服を購入する
- 動物性素材を使用していない服を購入する
- フェアトレード認証商品を購入する など
世の中には素敵な服がたくさんあり、新作情報もSNSで簡単に手に入る時代です。気になる商品を見てしまうと購買意欲も高まりますし、何の気なしに購入しがちですよね。
なにかと誘惑の多い現代ではありますが、「サステナブルの重要性」も頭の片隅に置いたうえで、本当に購入する必要があるかを今一度考えてみるのはいかがでしょうか。
サステビリティを意識して事業を行うブランド5選
現在では、このようなアパレル業界の慣習を見直し、サステナビリティを意識した取り組みを行う企業が増えています。以下に、その企業の一部を紹介します。
ユニクロ
ファッションカテゴリ | 性別 | サステナブルな取り組み |
ファスト ファッション |
男女 | ・売上金の一部を海洋ゴミの削減に活用 ・着用しなくなった服を回収し、難民キャンプに寄贈 |
ユニクロは、老若男女から愛される「ドラえもん」をグローバルサステナビリティアンバサダーとして迎え入れ、100%リサイクル繊維で作られたドラえもんのぬいぐるみやTシャツの販売を通し、サステナブルを広い世代に伝えています。
Her lip to ハーリップトゥ
ファッションカテゴリ | 性別 | サステナブルな取り組み |
女性向け ファッション |
女性 | 製造全てを倉敷で行い、オーガニックコットンを使用した、 長く愛せるサステナブルなデニムの開発 |
小嶋陽菜さんがプロデューサーを勤めるHer lip toは、新作が発売される度にSNSで注目を集めています。
若い女性からの支持が非常に高いHer lip toでも、オーガニックコットンを使用したデニムが販売されていました。このデニムは長く愛せるデザインでもあることから、サステナビリティも抜群です。
SNIDEL スナイデル
ファッションカテゴリ | 性別 | サステナブルな取り組み |
女性向け ファッション |
女性 | ・100%リサイクル素材で作られた服の開発 ・処分予定だった食材の成分から染料を抽出し染めた服の開発 |
女性から絶大な人気を誇るSNIDEL。クローゼットに1着は入っているという方も多いのではないでしょうか。
そんな人気ブランドでも実はサステナブルな商品が多く開発されているため、知らず知らずのうちに、あなたもサステナブル消費に貢献しているかもしれません。
GELATO PIQUE HOMME ジェラート ピケ オム
ファッションカテゴリ | 性別 | サステナブルな取り組み |
ルームウェア | 男性 | ・サステナビリティや環境に配慮した素材の開発 ・リサイクル素材を使用した服の開発 |
ルームウェアといえば「ジェラピケ」を思い浮かべる方も多いと思いますが、GELATO PIQUE HOMMEはジェラート ピケのメンズラインです。
あの特有の肌触りを男性も実感できるだけでなく、サステナブル素材でできたルームウェアを製品化。身も心もリラックスできること間違いなしです!
DESCENTE デサント
ファッションカテゴリ | 性別 | サステナブルな取り組み |
スポーツ | 男女 | ・自然由来の素材を使用した商品開発 ・着用しなくなった服の回収 |
本格的なスポーツ商品を販売するDESCENTEでも、自然由来の商品を開発。スポーツシーンにおいてもサステナブルを意識したウェアを身につけることができます。
好みにあったサステナブルファッションを探してみましょう
サステナブルファッションの言葉の意味や生まれた経緯、サステナブルファッションに取り組んでいるブランドについてご紹介してきました。
1着の服が完成するまでに、環境負荷が大きくのしかかってるだけでなく、現在進行形で人権侵害が起きているという可能性もあります。
このような状況を改善することが急務ではありますが、サステナブルを意識するあまり、自分の好みでない服や、衛生面で支障が出るレベルまで着倒す必要はありません。
ファッションにおけるサステナブルな取り組みについて、自分には何ができるのかと考えるだけでも立派な取り組みであると言えるのではないでしょうか。