「FIT制度(固定価格買取制度)」という言葉を聞いたことがありますか?
FIT制度とは、「Feed-in-tariff(フィードインタリフ)」の略称で、日本語では「固定価格買取制度」と訳されます。
FIT制度とは、再生可能エネルギーを用いて作った電気を、電力会社が「一定の価格で」「一定期間」必ず買い取ることを保証した国の制度。
価格やコストの面で、導入のハードルが高い再生可能エネルギーを、より普及させるために設けられました。
FIT制度が関係するのは事業会社だけではありません。
自宅の屋根や土地に太陽光パネルをつけるといった形で太陽光発電を導入しようとしている方には、ぜひ知っていただきたい制度になります。
FIT制度は適用期間があるため、期間が終わった「卒FIT」の方や「卒FIT」を控えて、その後の動向が気になる方も増えています。
そこで本記事では、FIT制度についての仕組みや手続きの流れ、またFIT制度を満了した後、すなわち「卒FIT後」の対策について紹介します。
FIT制度の歴史と現状
日本ではまだ知らない人も多いFIT制度ですが、実は世界50ヶ国以上で導入されている、歴史と実績のある制度です。
FIT制度(固定価格買取制度)の始まりは1978年。
米国において導入された法律が、風力発電の立ち上げに貢献しました。
現在のように、国家レベルで顕著な効果を挙げたと言われているのは1990年にドイツが設けたFIT制度。それ以降、FIT制度は再生可能エネルギーの普及政策としては、もっとも一般的な手法となっています。
買取金額は2000億円越え! 日本でも浸透しつつある、FIT制度
日本でFIT制度が設けられたのは、2012年7月。
(前身となる住宅用太陽光発電の余剰電力買取制度は、2009年11月にスタート)
FIT制度の対象となる再生可能エネルギーは、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電の5つで、これらのどれかを用いて電気を作れば、FIT制度の対象となります。
一般的な家庭や個人が取り組む場合は太陽光発電が圧倒的に多いですが、FIT制度を用いて買い取られた住宅用太陽光発電の総額は、2020年度で2817億円!(固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイトより)
金額の大きさから、規模と浸透度合いが分かるかと思います。
FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取)の仕組みとは
このように着々と普及しているFIT制度ですが、その仕組みはどうなっているのでしょうか。
まず電力会社が買い取る金額に関しては、発電方法と電力(単位:W)によって、細かく定められています。
例えば住宅用太陽光発電(容量10kW未満)の場合、2022年度の買取金額は17円/kWh。10kW以上50kW未満(余剰売電のみ)の場合は、11円/kWhとなっています。
この金額は毎年変わりますので、きちんとチェックすることが大切です。では、この買取金額の原資は、どこから集められているのでしょうか。
実は原資は、私たちが毎月払う電気代に上乗せされているのです。
「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という名称で、全国一律の金額で導入されています。
その金額は毎年度変わり、例えば2021年5月分から2022年4月分までの単価は3.36円/kWhとなっています。
このように、私たちの払った電気代が、環境に良い再生可能エネルギーの推進に用いられているのです。
FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取)の適用期間は?
一定の価格で買い取ってくれることはわかりましたが、買取期間はどうなっているのでしょうか。
こちらも法律できちんと定められており、一般家庭に設置されることが多い容量10kW未満の太陽光発電の場合は、制度認定事業者となってから「10年間」が買取期間となっています。
個人で売電を行う場合、太陽光発電を設置してから10年間は毎年度決まった価格で電気を買い取ってもらえると理解しておけば、間違いがないでしょう。
FIT制度の電気の買取金額は、ずっと同じなの?
この電気の買取金額は毎年見直されており、年度によって変動します。
買取金額の傾向としては、機器生産コストの低下、また発電効率の向上に伴い、下落基調にあるのは重要なポイント。
再生可能エネルギーの需要が拡大し、普及率も高まっているため、今後も売電単価は今後も下がっていくことが予想されます。
太陽光発電(10kW未満)に対する買取価格の推移(1kWhあたりの税込買取価格)
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10kW未満(太陽光単独) |
10kW未満(ダブル発電) |
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出力制御対応機器 設置義務なし |
出力制御対応機器 設置義務あり |
出力制御対応機器 設置義務なし |
出力制御対応機器 設置義務あり |
2009年度 |
48円 |
39円 |
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2010年度 |
48円 |
39円 |
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2011年度 |
42円 |
34円 |
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2012年度 |
42円 |
34円 |
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2013年度 |
38円 |
31円 |
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2014年度 |
37円 |
30円 |
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2015年度 |
33円 |
35円 |
27円 |
29円 |
2016年度 |
31円 |
33円 |
25円 |
27円 |
2017年度 |
28円 |
30円 |
25円 |
27円 |
2018年度 |
26円 |
28円 |
25円 |
27円 |
2019年度 |
24円 |
26円 |
24円 |
26円 |
2020年度 |
21円 |
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2021年度 |
19円 |
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2022年度※ |
17円※ |
※調達価格等算定委員会「令和3年以降の調達価格等に関する意見」において取りまとめられた内容
どうやって認定事業者になる? FIT制度の取得や手続きの流れ
電気の提供者である事業者にメリットのあるFIT制度ですが、どうすれば制度認定事業者になれるのでしょうか。
一般家庭に設置されることの多い太陽光発電の場合、FIT制度の認定を得るためには、事業計画策定ガイドラインを踏まえて事業計画を作り、電力会社への手続きと、国への手続きの2つを行う必要があります。
FIT制度認定事業者になるための、電力会社との手続き
国からの事業計画認定に当たっては、あらかじめ電力会社から系統接続について同意を得ておく必要があります。
電力会社への手続きは、電力会社に特定契約を申込し、特定契約を締結すれば終了。特別に難しいことはありませんが、電力会社と相談しながら進める必要があります。
まずは、電力会社に問い合わせることから始めましょう。
連携希望地付近での系統状況について、簡易検討(事前相談)を申し込むことで、そもそも電力会社が電気を買い取れる環境にあるか、調べることができます。
こちらは省略することも可能ですが、疑問や不安などをこちらで解決しておくと良いかと思います。
次に電力会社に接続検討を申し込み、電力会社が問題ないと判断したら、接続契約の締結へと進みます(原則として3ヶ月以内に接続可否を回答)。
締結が終われば、電力会社から工事費負担金が支払われます。
FIT制度認定事業者になるための、国との手続き
国への手続きは、経産省へ事業計画認定を申請し、認定を受けることで、手続きを進めることができます。
問題がなければ、設備工事の発注、着工、完成、そして試運転へと進めることができますので、落ち度のないよう、しっかりと手順を踏んで進めましょう。
事業計画を立て、立地と設備について詳細を検討したら、経産省に事業計画認定の申請を行います(250kW以上の太陽光発電の場合は、入札での落札が必要)。
事業計画の申請については、Web上で行うことができます。
無事、経産省の認定を受けることができたら、設備の発注をし、着工・完成・試運転と駒を進めます。問題がなければそのまま運転を開始し、電力供給事業者として、制度を活用することができます。
※詳細については、経済産業省資源エネルギー庁のサイトをご覧ください。
2022年のFIT制度改革のポイント
制度活用の方法を見てきましたが、制度そのものも変わっている点も、見落としてはいけません。
特に2020年から買取価格の仕組みが大きく変更され、「地域活用要件」が導入された点は要チェックです。
FIT制度に新たに導入された「地域活用要件」とは
地域活用要件とは、一般家庭への設置をはじめとした、小規模事業用の太陽光発電を対象にした新しい要件。
特に出力10kWから50kWの太陽光発電での売電を検討している方は、地域活用要件に沿って準備を進める必要があるため、きちんとチェックしながら進めるようにしましょう。
地域活用要件では、主に以下の2点を重視しています。
- 「自家消費率(余剰売電を行う設備構造・事業計画)」
- 「災害時を想定した自立運転機能(災害時に活用可能な設備構造・事業計画)」
現在、資源エネルギー庁では、災害時のレジリエンス(強靭性)強化方針を掲げており、停電や地震といった有事の際に、再生可能エネルギーを活用した電気を即時活用できる状態にしておきたいと考えています。
そこで資源エネルギー庁では、「自家消費ができる構造になっているか」「災害時にも機能するか」という観点から、太陽光発電を災害復旧に活用できるように、地域活用要件を定めました。
地域活用要件のポイント1:自家消費率の導入
1つめのポイントは、自家消費率。新規でFIT認定を受けるには、自家消費率30%を維持しておく必要があります。
これまで、太陽光発電で発電した電気をどの程度売るかは、各事業者に任されていました。
しかし要件の制定以降は、発電した電気のうち30%を、自宅の照明設備や各種機器で使用することが義務付けられています。
またFIT制度申請の際には、どのような方法で自家消費を行うのか、自家消費計画も提出しなければなりません。
つまり、自分たちで作った電気を自分たちで使用する状態を、常日頃から作っておこうというのが、自家消費率制定の目的です。
自家消費計画には、年間の見込み発電量、自家消費分の用途、見込み消費電力量、自家消費比率などを明記。
すでにある建物に後から太陽光発電装置(パネル等)を設置する場合は、建物内の消費電力量を過去1年間分までさかのぼって提出する必要があるため、入念な準備が必要です。
地域活用要件のポイント2:自立運転機能の導入
通常の太陽光発電の場合、パネルなど装置の稼働には、外部電源が使用されています。
しかしこれでは、万が一災害が起きて停電した場合、せっかくの太陽光パネルが利用できなくなってしまいます。
そこで必要になるのが、自立運転機能。
自立運転機能付き太陽光発電装置の場合、太陽光パネルで発電した電気をパワーコンディショナなど各種機器へ電力供給するとともに、専用のコンセントから電気を取り出せるため、災害時にも電源として使用が可能。
そのため、現在では稼働自立運転機能の設置が義務付けられました。各メーカーでは、自立運転機能付きの設備や機器を製造・販売しているので、こちらもよく調べて設置するのが良いでしょう。
FIT制度の今後と、卒FIT後について
FIT制度では、認定事業者となってから10年間、電力会社が国が定めた単価で買取を行います。
前身となる住宅用太陽光発電の余剰電力買取制度が制定されたのは2009年11月ですので、早いところでは2019年11月より、10年間の買取期間が順次満了を迎える形となります。
もちろん、11年目以降も売電することができます。
しかし、買取金額は下落傾向にあり、同じ年度でもタイミング・地域・電力会社によって変動するので注意が必要です。
※参考までに、全国の各大手電力会社の買取価格は7円~12円/kWh程度のようです。
卒FIT後は、電気を売るより使う方がお得!
買取期間を満了することを、「卒FIT(そつフィット)」と呼んだりしますが、卒FIT後は電気を100%自分たちで使うか、余った電気をこれまで通り売るかを選ぶ形となります。
どちらが、経済的にお得なのでしょうか。
一概には言えませんが、卒FIT後は、自分たちで電気を使った方が経済的にはお得になる傾向にあります。
その理由は、売電価格の下落。
前述の通り、FIT制度期間の売電価格は毎年下がっており、今後も毎年2円程度下がることが予想されます。
もちろん、FIT制度適用外の電気の買取価格も下がっていくでしょう。
そのため、可能であれば自分たちが作った電気は全て自分たちで消費する「全量自家消費」に取り組むことがオススメ。
家庭用蓄電池を用いて作った電気を貯めておくことで、電気を使いたいときに自由に使うことができますし、停電が起きたときも安心です。
何より、電気を自分たちで作り、消費する行動は、紛れもなく環境に良い行動だと言えます。
同じ再生可能エネルギーでもFIT制度には当てはまらない「非FIT(Non-FIT)電気」もある
環境対応への観点から言えば、同じ再生可能エネルギーを用いても、FIT制度に依存しない「非FIT(Non-FIT)電気」にも注目が集まっていることをご存知でしょうか。
FIT制度は再生可能エネルギーの利用を後押ししますが、前述の通り、原資は電気利用者が負担する再エネ賦課金であるという課題が残ります。
また同時に、再エネ賦課金という形で「すでに環境価値への対価が支払われている」という理由で、実はFIT電気は、100%再生可能エネルギーとして法律上は認められていないのです。
これに対して非FIT(Non-FIT)電気は、発電した電気を誰かが買い取る義務はありません。そのため、「CO2を排出せず、環境負担が少ない」という環境的な価値が担保され、100%再生可能エネルギーとして法的に認定されます。
再生可能エネルギーの利用コスト低下が進む今、国としても補助金減をはじめとしたFIT制度による買取規模縮小を進めており、今後は非FIT(Non-FIT)電気により注目が集まっていくでしょう。
まとめ:太陽光発電とFIT制度を検討されている方は、今一度自分にあったプランの検討を
FIT制度(固定価格買取制度)の歴史や仕組み、今後の展望、また非FIT(Non-FIT)電気についてみてきました。
今後、国内のエネルギー自給率の向上を目指して、太陽光発電など再生可能エネルギーへの需要は高まる一方、売電金額は減少傾向にあります。そのため太陽光発電装置の設置、また卒FIT後の対応については、どうするべきかを考えなければいけません。
最適解はそれぞれ違うかもしれませんが、家計の状況、また、どれだけ自家消費できるかなども含めて考えることで、計画的な再生可能エネルギーの活用を実現していきましょう。